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デジタルなのになぜ音が変わるの?

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元SONY音響関連技術者で、ネットオーディオ記事でもかねてより有名だったかないまるさんのサイトに表記がわかりやすく解説されています。

自分への備忘録も兼ねて転載させていただきます。デジタルもメカトロニクスなんだということがよくわかります。



さて、ではリニアPCMなら、どんなシステムを使っても音質はいいのでしょうか。デジタルだから、データさえ完全なら音質は変わらないのでしょうか。

実はそうではないのです。アンプはもちろん、プレーヤを変えても音質は変わります。また02実技1)~4)でご紹介したように、PS3をメカ的に補強したり、08解説/実技 その1)~その2)のように、絶縁トランスをPS3側に入れることでも音質はよくなります。

このへんのことは、もともとオーディオに詳しい方はよく分かっているのですが、PS3をきっかけにオーディオの世界に入ってきた方には理解しにくいようなので、少し解説を書いてみます。

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まず音はどこで変わるのか。いろいろな要素がありますが、プレーヤ側になにかして音が変わるのは、ほぼ100%時間軸の揺らぎが原因です。デジタルオーディオ波形は、数字で書かれた縦軸の高さと、一定不変の間隔を持っている横軸(時間軸)で組み立てられます。

プレーヤとアンプの間の伝送では、なにかバグでもないかぎり、縦軸のデータは変わりません。上記メカチューニングでも、絶縁トランスを入れることでも全く変わりません。

でも横軸、時間軸は簡単に動いてしまいます。

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それはなぜでしょうか。

時間軸を支配しているのは、一番最初はPS3内にあるマスタークロックを作る水晶振動子です。何MHzで動作しているか聞いたことはありませんが、とにかく一定のリズムで高速振動するきれいな波形がスタートです。

そこからアンプに信号が伝わって、最終的にAVアンプ内のDA変換器でオーディオ波形が作られるときも、このクロックが横軸を決めています。ところがこの横軸は、実はとても簡単に揺れてしまうのです。

オーディオ波形は縦の高さと一定間隔の横軸で作られます。
イメージ 1


こんな感じ。このうち縦軸の高さはデータとして数値で書いてあります。しかし横軸は「一定間隔で変換する」と決まっているだけです。

横軸は一定間隔でいるのが最良で、もちろんそのように設計は努力します。でももし横軸が揺れたら。
イメージ 2


そうですね。波形は変わってしまいます。赤は同じ周波数のクロックですが、ジッタにより時間がずれています。つまり縦軸は全く同じでもクロックがだめだと音が変わるのです。崩れれば崩れるほど音質は悪くなります。

また結論から言って、メカの振動の影響を色濃く反映しますので、貼り物や補強で、まるで楽器のようにその表情が変わります。その変化はわりと自由度があり、慣れた人は自分の好みの方向に音質を変えて行くこともある程度可能です。ぐにゃぐにゃのシャーシではしっかりした音はでません。PS3の箱はプラスチック製で、決して強靱ではありません。しかしポリカーボネイトという比較的しっかりした素材が使われていて、なおかつ曲面により強度が高いので、音質がよい素養があるのです。

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本題に戻りましょう。ではなぜ時間軸は揺れてしまうのでしょうか。

水晶振動子で作られたクロック波形は、伝送路であるプリント基板にまず伝えられます。次にHDMIケーブルを伝わりアンプに伝えられます。アンプではそこからDA変換ようのクロックを作り直し、DAコンバータICに伝わります。そこで初めて横軸として使われるのです。そう考えると、結構な長旅であることと、その途中まではPS3内であることがわかります。

クロック波形が揺れる原因は電気的なものと、メカ的な物があります。どちらから説明してもいいのですが、電気的なものから説明します。

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その前に、クロックが揺れる真の原因をご紹介しておきましょう。

ところがクロック波形は、教科書的には縦線と横線だけでできていて、しかも一定間隔の波形です。この垂直部分をエッジといいますが、DA変換はこのエッジを使って行なわれます。

このエッジ。もし完全に垂直であれば、時間軸の揺れはほとんど発生しません。実際、大略垂直です。しかし完全には垂直ではなく、必ず斜めのスロープを持っています。このスロープが上がり始めてから上がりきるまでを立ち上がり時間といいますが、この斜めの部分がある電圧に達したとき、波形は0から1に、または1から0に変化したとされます。

ところが、このスロープが立ち上がっているときに、電源などからノイズが入って重なったらどうなるでしょう。プラスのノイズが重なると、波形は早く立ち上がったように見えます。マイナスのノイズが重なると遅く立ち上がったように見えます。つまり、システム内にノイズがあると、それがクロックのエッジと重なることでクロックは早くなったり遅くなったりするように見えるのです。

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もう一つの原因がメカ的な変形です。これは振動が原因で起こります。

たとえばクロックが流れているプリント基板と、ケーブルが接続されている接点に振動が入ったとします。接点には接触抵抗がありますが、接触抵抗は振動により大きく変化します。振動が無いと0.01Ω程度ですが、振動が入ると瞬間的に0.1~0.5Ω程度まで上昇することがあります。

そのため振動が入るとその瞬間に波形の高さが低くなってしまいます。そこがエッジだったら。そうです。クロックが遅れるように見えるのです。

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またケーブルのような伝送路は、特性インピーダンスというものが決まっていて、100Ω前後の値を持っています。ケーブルの入り口と出口にも同じ値の抵抗があり、ケーブル上の電圧は、回路が作った電圧の半分の大きさで伝送されています。

ところが、ケーブルの特性インピーダンスは、ケーブルの幾何学的な形により決まっています。つまりプラスとマイナスの二本の電線の間隔でほとんどが決まります。そこに振動が入ると、この特性インピーダンスが動きます。

振動の程度にもよりますが、たとえば100Ωの特性インピーダンスが105Ωになったり95Ωになったりしたらどうでしょう。1/2の大きさで伝送されている波形が何パーセントも大きくなったり小さくなったりしたら。そのエッジが斜めだったら。そうです。時間軸が揺れてしまうのです。

実際ケーブルで発生するジッタは比較的大きいのが普通で、機器内部の配線が簡単なのに機器外のケーブルに高額商品が存在するのは、機器外のほうが機器内よりはるかに振動的に難しいからです。

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このように振動やノイズは、あらゆる場所でクロック信号を時間軸方向に前後に揺らします。このような現象をジッタと呼びます。もともとは映像用語のようですが、今では立派なオーディオ用語の一つになっています。

そういうわけで水晶振動子で作られたクロックは、最後のDA変換を行なうタイミングクロックになるまでにかなり劣化を受ける可能性があります。その結果として、音質は変わるのです。多くの場合、それは音質の劣化になります。

02実技1)~4)でご紹介した補強はクロックの送信側である筐体の振動をコントロールしてPS3の音質をよくしようとしたわけですが、最終的にAVアンプから出る音が変わるのは、実はこんなに長い道のりをへて起こっているのです。

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もう一度書きましょう。デジタルオーディオの根本であるDA変換の原理。その縦軸は数字で組み立てられますので化けようがありません。しかし横軸 (時間軸) は、マスタークロックが一定間隔の繰り返し信号であるということを前提に成り立っています。そのクロックは意外にも簡単に揺れるのです。

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こう書くと、デジタル伝送は数値伝送なので音など変わるわけがないとかたくなに思っていたる方も、その自信にジッタが混入すると思います (あ、自信が揺らぐというシャレです)。

とにかくジッタはケーブルを伝わります。ケーブル自体でも発生します。だからプレーヤの振動対策は必用です。必ずおかしなクセがないように筐体はチューニングされていなければいけません。ケーブルや接点も同じ理由できちんとしたものが必用です。これは信号生成の演算能力と同等以上にとても大切なことです。なぜなら、ジッタが多いと、せっかくの縦軸の演算精度を全く活かせなくなるからです。

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さて、ではPS3の音は------
しかしもし、もっとビット数の多い演算でデシメーションをおこない、24ビット精度がフルに保証されたPCM伝送路で信号が伝送されたらどうでしょう。DSDパルスをそままDA変換するCD/SACDプレーヤ (ただしアナログアウトのみ) を除いては、かなり高品質な再生が可能となるはずです。今まではそういう演算をできるデバイスはありませんでした。

ところが、できちゃったんですね。そういうプレーヤが。なんと64ビット浮動小数点演算で信号処理をおこない、完全24ビット精度でデータをHDMIに乗せるプレーヤが。それが何あろう、PS3なのです。

PS3はもちろんゲーム機です。ソニー本体とは企画も設計も営業も台数も違うゲーム既メーカであるSCEの作品です。しかし久夛良木社長は、早い時期から「世界一のマルチディスクプレーヤにする」と宣言していました。実際そのとおりになってしまったのです。

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これがPS3に搭載されているCELLブロードバンドエンジンというデバイスです。
イメージ 3

圧縮音声やDSDの話をしたので、これがDSPだと思う方もいらっしゃるでしょう。確かに中にはシャークそっくりなSIMD命令と演算方式をもつDSPが7個も入っています。

でもCELLはDSPではありません。そのDSPを束ねているのが、PCなどで使われるペンティアムやアスロンの仲間の「CPU」だからです。つまりCALLはCPUとDSPの両方の演算を高速にこなすデバイスなのです。

演算語長は基本が32ビット浮動小数点。倍精度演算をすると64ビット浮動小数点演算ができます。これが音質のよい第一の理由となります。

なにしろ演算速度が数年前のスーパーコンピュータ並で、オーディオ信号の倍精度処理なんて朝飯前。1080Pの映像信号の演算処理も同時に実行してしまいます (映像出力はグラフィックエンジンが別にオンボードされています)。速度はPentium4の3~4倍 (一説には10倍とも)。IBMが次世代のPCを作るために採用を決定している次世代PCのキーデバイスでもあります。

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PCのCPUというとマザーボードを思い浮かべる方も多いと思います。今回は画像を公開しませんが、実はPS3はたった一枚のマザーボードだけでできています。USBのリモコンも、HDMIも、グラフィックアウトもHDDもLANも、電源もBDドライブも、全部オンボードのコネクタにマウントされます。

そしてマザボをアルミのケースで上下から挟んで、その上に電源とBDドライブを乗せ、下に冷却ファンをおき、操作ボタン基板、ブルートゥース基板、メモリーカード基板もマザボと接続。そしてポリカの外装で包めば出来上がり。実にシンプル。BDドライブとHDDは一番遠いところにおいてありますが、これは音質を意識したとしか思えません。このシンプルでよく考えられている構造も高音質の可能性を提供しています。

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次にすごいのが、そのBDドライブの中のモーターと光学系です。

大きなトルクと高速アクセスは急加速、急減速、頻繁な読み出し位置の変更を行うゲーム機には絶対に必用なスペックです。そのため大型のBSL (ブラシアンドスロットレス) モーターが、ものすごく肉厚の金属ベースにガッチリと載っています。

高速アクセスが可能な光学系もBDの精度を持っていますので、DVD精度 (つまりBDよりはかなりの低精度) で十分なSACD用としては、かつてないほど異例に高級なドライブが使われているということになります。

そもそもBSLモーターというのは、ダイレクトドライブのアナログターンテーブルのために開発されたもので、そもそも最も高級なモーターのひとつです。かないまるもCDP-R3を設計したときにBSLモータを設計したことがありますが、小さい直径でもものすごいハイトルクが出て、なおかつ静かで音質がいいので、自分で作ったのにその性能にたまげました。

今後こういう高級モータはブルーレイディスクの再生のために復活してくるでしょうが、かつてCDでも、発売開始からCDP-X5000のころまでは普通に使われました。しかしその後マグネットモーター(模型用のモータと同じタイプ)の性能が上がったため、BSLモータは今はあまり使われていません。

強力なトルクをもち、芯ブレがなく、コギングもないBSLモータは、良質なオーディオ再生にはどうしても欲しいもので、ここにもPS3が高音質になる理由があります。

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ところで、スロットインのメカ。どうしてもカーステみたいでいやだという方に、とっておきのお話しをしましょう。

私がCDプレーヤを設計していたころ、音質的にみて一番むずかしいと思ったのはローディングトレイ (ローディングテーブル) です。ディスクと光学系の間に入るので、トレイが振動しやすく結構悪さをします。

トレイはスピーカの音圧の影響でガタガタと揺れるので、プレーヤの音質設計で最初に手を加えるのは、私の場合は実はトレイ周りでした。ローディング完了後にトレイを機械的にレバーでシャーシに押さえつけるというメカまで作りました。CDP-R3とCDP-R1a用ですね。「ステイブルロックメカ」なんて名前をつけました。

その後私が設計したCDP-R10やCDP-X5000では、トレイそのものを使いませんでした。いわゆるトップローディング。すでにこのころかないまるは、自分のモデルではトレイを使わないと決めたのです。

ところがスロットローディングは、入り口にある4個のローラーと、奥にある2個のローラーでディスクをセンターに持って行き、ローディング完了後はローラーが隅に離れてしまいます。つまりテーブルローディングと違い、不要振動を発生する要素がひとつ完全に除外されているのです。

PS3の中を開けてみて、実はこれをみて「ガーン」と思いました。そうか、スロットローディングは音がいいんだ…。これは気付きませんでした。

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というわけで、PS3は、どんな高級 (=高額) なプレーヤにも負けない数々の高音質になる理由を持っています。なのでかないまるは、だいたいの構成を聞いた段階で多分音がいいだろうなあと思っていました。

で、9月に、TA-DA3200ESのHDMIの検証のために、久夛良木社長に「ください」とお願いしたら、「いいよ」と2台用意してくださいました。持ってきたくれたのはSACD部分を作り込んだSCEの石塚さんをはじめ、SCE関係者約10名。

一緒に聴きましたが、いやー、たまげました。まだまだチューニングのいる音だとは思いましたが、とにかく今まで聴いたことがないよい音が出る。特に低音がいい。もちろんポリカの筐体なので少し狭い帯域バランスでしたが、それでも低音のが普段より1オクターブくらい低いところまで延びているのがわかりました。

そこで、TA-DA3200ESの最終の評論家導入用に使うことにして、内部はいじらずに、外側からきる限りの補強 (チューニング) をしました

また、導入をするということはきわめてシビアに音を聴かれますので、今まで発見されていない演算上の問題もかなりみつかりました。もちろん開始前にかないまるが発見したバグも沢山あります。

実は導入前日に巨大なバグが見つかり、責任者の石塚さんはなんと徹夜になりました。ご苦労さまでした。

そのほかTA-DA3200ESの最終仕上げと期を一にしていろいろと見つかった問題点も、SCEメンバーの信じがたいほどのモチベーションによりどんどん修正されました。そういうわけでPS3は、TA-DA3200ESと一緒に、何十人もの人間に鍛えられて仕上がったと言えます。

最終的にPS3+TA-DA3200ESの音は、聴く人に「いままで聴いたことも無いようなストレスのない自然でよい音。空間も異例に広い」といわしめるほどになりました。

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最後に。

このプレーヤをかないまるの職場で作ったらいくらになるでしょうね。なにしろ販売台数が3~4桁違いますからね。オーディオ機器として作ったら税込み20万円かな。足りないかな…。

もちろん音質を考慮しないで作ったらPS3は単なるゲーム機ですが、PS3は、久夛良木社長の執念と、SCEメンバーのモチベーションと、かないまるのお手伝いと、大勢の外部の方に鍛えられ、音質的にみて画期的といえるオーディオ機器になっているところがすごいんです。

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次回は、今回のお話しで出てきた「内部はいじらずに、外側からできる限り行ったチューニング」の全容を、惜しげもなく公開してしまいます。ただし耳で判断するチューニングもありますので、覚悟しておいてくださいね。

まあかないまるがどんなところで耳を使うかがわかって面白いと思いますが。


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